2025年1月からWWDJAPAN.comでマンガ版「ザ・ゴールシリーズ 在庫管理の魔術」が連載中です。在庫過剰に陥ると、つい値下げセールに頼ってしまう――。しかし、本当にそれしか方法はないのか? 利益を高め、最大化するための解決策を、アパレル在庫最適化コンサルで「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」「図解アパレルゲームチェンジャー」等の著者である齊藤孝浩ディマンドワークス代表が、同マンガを読みながら、解説して行きます。今回は、第5話を取り上げます。
在庫の小口移動が利益を生む
第5話のテーマは、「物流コストと機会損失の関係」です。
マンガ「在庫管理の魔術」の第5話は コチラ 。
主人公と中央倉庫の担当者との会話から、渋谷店に発送している商品は同店がもともと預けていた在庫だけではないことが明らかになりました。倉庫の責任者は、渋谷店から発注があると、同店の在庫がなくなっても、倉庫に眠っていた「バラ在庫」を発送してくれていたのでした。倉庫で配送ロットにならずに、滞留していた在庫を融通してもらったことによって欠品がなくなり、売り上げが劇的に伸びたのです。
前回も話題にしましたが、大半のアパレル事業者は、配送コストの削減を目的として、まとまった量の商品を発送するルールを持っています。そのため、発送する商品の量が一定数にならないと、出荷しないというのが普通です。こうしたルールのために、一定数に届かずにすぐには出荷できない商品が「バラ在庫」として倉庫に眠っているケースがあります。
渋谷店は、地下倉庫が水浸しになったという緊急事態に対応するために、その日に売れた分だけを、預け在庫とフリー在庫の中から、毎日、倉庫に発注する仕組みにしました。それに対応してもらえるなら、と、ある担当者がダメ元で、以前、欲しくても送ってもらえなかった欠品商品も、追加リクエストしてみたところ、倉庫側は、気を利かせて、他店向けの滞留していた在庫を回してくれたのです。これがプラスアルファの売り上げにつながったことは間違いありません。他店がそれを知ったら怒るでしょうけどね(笑)。
こうした体制では、売り上げが伸びる半面、配送コストが増えるのは確かです。1日ごとにバラバラと配送しているため、商品1点当たりの配送コストが大きくなるからです。
配送コストを気にするよりも、欠品を防いでプロパー販売機会を増やす!
しかし、欠品が減り、売り上げが増えることによって、その分、仕入れ原価などの変動経費は増えても、今までと同じ人員体制で店舗運営が出来て固定費が増えなければ、売り上げ増によって増えた粗利額(売上高―仕入原価)は、そのまま利益として残ります。
これが、渋谷店の売り上げが20~30%しか増えなかったのに、営業利益が倍増した理由です。
注:ショッピングセンターに出店しているテナントにとっては、家賃は売上歩合制なので、家賃も変動費(売上が増えれば、それに連動して増える経費)。固定費は人件費や通信費などにとどまります。一方、ハンナズ渋谷店は路面店のため、家賃も固定費になるため、売り上げが増えても、家賃は増えない契約のため、売れば売るほど利益が増える構造という違いがあります。しかし、テナントの場合でも、同じ販売体制で人件費など固定費が変わらなければ、20~30%も売り上げが増えると、利益は1.5倍くらいになるはずです。
私も、支援しているアパレル事業者さんに対しては、配送コストという制約を気にせずに欠品を防いでプロパー販売機会を増やすことを勧めています。なぜなら、定価で販売できれば、経費の増加分よりも粗利の増加分の方がはるかに大きいからです。例えば、販売価格が5000円の商品であれば、粗利はだいたい半分の2500円。しかし、セールになって30%オフになってしまえば、売り上げは3500円になりますので、粗利は1000円しか儲かりません。その差額は、1500円。たった1点を送る配送費よりも多くの粗利額が稼げると思いませんか?
倉庫から店舗に限らず、店舗間移動に関しても、配送ロットにとらわれるルールの中では、プロパー販売のタイミングを逸してしまったり、タイミングを誤れば、過剰在庫となる商品が出てきたりします。こうした商品は、後にセールとして値下げをして販売せざるを得なくなったり、売れ残り在庫になったりしてしまい、稼げる粗利をみすみす失ってしまうことになるでしょう。シーズン商品を扱うアパレル事業者の方は、改めて物流コストと欠品の関係を見直してみるとよいでしょう。