クリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)前「ベルルッティ(BERLUTI)」アーティスティック・ディレクターはこのほど、ベルギーのホームウエアブランド「セラックス(SERAX)」と協業し、“ジョセフィーヌ コレクション”を発表した。2007〜18年まで「ディオール オム(DIOR HOMME)」(当時)、18〜21年まで「ベルルッティ」でメンズウエアのデザインを手掛けた際に印象的だったトライバルタトゥーのモチーフや、パンクな缶バッジといった意外性のある要素を花瓶にも応用。ガラス製のポピーやチューリップ、コンクリートや大理石、銀メッキの磁器といった珍しい素材の花瓶をそろえる。
撮影は、アントワープを拠点に活動するフラワーアーティスト、マーク・コール(Mark Colle)と協業。同氏は、12年にラフ・シモンズ(Raf Simons)による「ディオール(DIOR)」のファーストコレクションで、ショー会場の壁を数十万本の花で覆ったことでも知られる。
祖母ジョセフィーヌへのオマージュ
祖母ジョセフィーヌに敬意を表して名付けた同コレクションは、祖母が持っていた花瓶やキャンディーディッシュ(キャンディーやチョコレートなどを入れるために使われるガラスや陶磁器のボウル)から着想を得た。「祖母はそれほど裕福ではなかったがハイセンスで、身だしなみを整えるのが好きだった。帽子を被らずに外出することはなかったし、ちょっとしたランチでも、いつもすてきなテーブルセッティングをしていた。祖母にとってそれらは、礼儀の一つだったのだろう」とクリスは振り返る。
同コレクションについては、「これまでに私がデザインした中で恐らく最も古風なアイテムで、モダンに再解釈することでその美しさを強調することができた。花瓶やキャンディーディッシュをモダンにしたり、アップデートしたりするのはほとんど不可能だと思っていたが、コンクリートや銀メッキの磁器といった素材を採用することで、うまく再解釈できたと思う」と話す。
全ての花瓶の底面を四角形にすることで、安定感を増すだけでなく、よりモダンでミニマルな感性を表現した。花瓶から斜めに突き出た長いガラスチューブは、花束の最後の一輪を飾るのに使うことができる。ガラス製の造花は、“生きた花に混ざる人工物”という表情を持ち、不穏な要素を加える。
一輪挿しは49ユーロ(約7900円)、背の高い黒い大理石の円柱型の花瓶は560ユーロ(約9万1200円)、ガラス製のポピーとチューリップは42〜69ユーロ(約6800〜1万1200円)、キャンディーディッシュは95〜260ユーロ(約1万5400〜4万2300円)だ。「セラックス」の公式サイトでは、すでにほとんどの製品が在庫切れとなっている。
「セラックス」と協業に至った経緯
クリスのInstagramのフォロワーであれば、彼の前腕のタトゥー(左腕に蘭の花、右腕にチューリップ)や、アパルトマンの玄関で花束を抱いている姿の自撮りなど、同氏の生活に花がよく登場することは知っているだろう。「食料品の買い物と併せて、ご褒美としてよくマルシェで花束を買う。また『ルイ・ジェロー・カストール(LOUIS GERAUD CASTOR)』というパリの花屋の、花束に何かしらのコントラストや不安定な要素を加え、緊張感を持たせる手法が気に入っている」と話す。
クリスは、アン・ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)が「セラックス」で発表したテーブルウエアの愛用者で、「セラックス」については以前から知っていた。21年に「ベルルッティ」のアーティスティック・ディレクターを退任して以来ファッション業界から離れ、職人たちとの交流を求めた同氏は、「セラックス」に直接連絡を取ったという。最高経営責任者(CEO)との面会を取り付け、“ジョセフィーヌ コレクション”を実現するための1年にわたるプロジェクトに着手した。
クリスはたくさんの花瓶を所有しているようだが、「奇妙なことに、自分が本当に好きで必要と思う花瓶は一つも持っていなかった」と明かす。最初のアイデアは、花瓶と同様のガラスやコンクリート、大理石で造花を作ることだったが、技術的に可能なのはガラスだけだったという。「花瓶は、花束を飾ると美しい花々に隠れてしまい、何も入っていないとクローゼットにしまうかのどちらかだといつも感じている。花瓶をオブジェとして見ることはない。花があってもなくても使えるような、それ自体が魅力的な花瓶を作ることに挑戦した。一つの花瓶に複数の機能を持たせるというアイデアも気に入っている。これらの花瓶は全てチューブが付属するので、花束の最後の1輪まで美しく飾ることができるんだ」と語った。
本文中の円換算レート:1ユーロ=163円